club No.1
《登場人物》
ヒロ
ゲンタ
イチダイ
オーナー(ライブハウスのオーナー)
西垣朋(オーナーの孫娘)
徳間社長(村の大地主)
角川さん(肉屋のおばさん)
常呂恵美(人気バンド「ナンバーワンダー」のマネージャー)
放送A(村に流れる役場発信の公共放送)
放送B(村に流れる役場発信の公共放送)


  都会からはるかに遠く離れた「丸井村」。
  小劇場のように薄暗く、無造作な装飾の部屋。
  それはこの村唯一のライブハウス「club No.1」。
  マイクスタンド、何かの部品のようなものが散在し、施設が使われているような面影はない。
  客席側の壁際には衝立が壁と平行に置かれており、まるで掲示板のように古く色褪せたようなライブのチラシの他に、まだ色褪せていない音楽雑誌の記事の切抜きが何枚も貼られている。
  雑誌記事で紹介されているのは人気バンド「ナンバーワンダー」のボーカル・ICHIのインタビューがほとんど。
  遠くで村の公共放送が流れている。

放送A  こちらは、丸井村役場です。来週の医師の村内巡回予定をお伝えします。来週の巡回は、20日、火曜日、午後1時ごろから、午後4時ごろまで、大塚町の穂積先生が、巡回する予定です。往診を希望される方は、健康保険証を準備の上、当日、朝の10時ごろまでに、村役場、厚生衛生課の窓口で、往診予約をお願いします。担当は総務部・上野です。
放送B  続いて、インターネットの無料開放のお知らせです。村役場では、平日、午後3時ごろから午後5時ごろまで、インターネットにADSL回線で接続できるパソコンを1台開放しています。ご家庭のパソコンのように、電話代の心配をすることなく、快適にインターネットが利用できます。どうぞご利用ください。詳しくは村役場の過疎対策課の窓口で、お問い合わせください。担当は総務部・上野です。

  静かで誰もいない廃屋のような空間に、イチダイが訪ねてくる。
  彼はのどかな田舎町には似つかわしくない、都会的な服装で、小振りなボストンバッグを提げている。

イチダイ よお。帰ったぜ。

  しばらく待っても答えはない。
  動じることなく、周囲を見渡し、客席や舞台の壁や床の何らかの痕跡を懐かしむイチダイ。
  しかし、一向に現れない空間の主。
  やがてイチダイは腕時計で時間を確認する。

イチダイ 返事なし…。留守か。

  諦めて退室しようとするイチダイ。
  一度足を止めて、姿なき主に向かって挨拶する。

イチダイ また来るぜ、おやっさん…。

  イチダイ、退室。
  再び誰もいない静かな空間となる舞台。
  しばらくすると、オーナーが登場する。

オーナー 誰だい?

  すでにイチダイの姿はない。

オーナー 何だ、気のせいか…。

  姿を消すオーナー。
  再び誰もいない静かな空間となる舞台。
  やがてヒロが慌しく駆け込んでくる。

ヒロ   おやっさん!おやっさん!

  姿を消したオーナーの反応はない。

ヒロ   おやっさん?いないの?
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