論理的な男(生徒会室編)
『論理的な男(生徒会室編)』

何事も論理的に考えてしまう男の話。心の中での声は心の中の男が代弁する。かなりナルシスト。
心の中の声は、もう一人の役者が演じるか、それとも録音でも可。
A「俺の名前は聖誠(ひじりまこと)、桐島学園高等部、生徒会副会長だ。今日も今日とて完璧な仕事と仕切りで会長殿をサポートするとするか」
鏡を見て身だしなみを整える。
B(ふ、今日も完璧だ。今日の俺も美しい)
A「さて、仕事を始めるか」
自分の席に座ろうとしてやめる。
B(ふ、いずれは会長の座は俺の物……ならば、俺がこの席に座って仕事をしようと何ら問題ない)
会長の机に向かい書類の整理を始める。
ふと、机の上に1冊の本を見つける。
B(ん?なんだこれは)
険しい表情。深刻な音楽が流れる。
A「ば……馬鹿な」
手に取ってまじまじと見る。
A「toラブるだと…?」
B「説明しよう、toラブるとは少年ジャンプ連載中の矢吹健太郎が漫画を描いている話題の萌え問題作である。最近のジャンプをただの萌えマンガに貶めている腫瘍の一角である」
もう一度ものすごい顔で睨みつける。深刻な音楽。
A「toラブるだとぉ!」
しばらく変顔で静止した後、落ち着いて、
B(ふ……バカな。冷静になって考えればわかることだ。あの厳格な生徒会長がこんな低俗な書物を読まれるはずがない。気のせいだ)
A「しかし……」
B(厳格だからこそ、ということもある。いつもは抑圧されている欲望は何らかの形で解消されなければならない。人間ならば当たり前のことだ。ならば、会長にとってはそれがこのマンガだったと、ただそれだけのことではないか)
A「いやいや、有り得ない。考え過ぎだ」
B(そもそもこんな本でストレス解消になるはずがない。生徒会会長ほどの激務だ。この程度の娯楽で日頃の疲れが癒されるはずが……)
手に取ってパラパラとめくってみる。
B(――エロい!)
上を向いて鼻を押さえる。鼻血が出そう。
B(馬鹿な、少年ジャンプだぞ?週刊誌だぞ?それがここまでの露出を……有り得ない。否、あってはならない、こんなこと。そもそも少年マンガにおけるお色気要素とは極たまに小出しにするからこそ意味があるのではないか?読者の性欲を僅かにそそる、それによって作品自体に淡い刺激のエッセンスを加え、読者の興味と高揚感を刺激し、作品全体を盛り上げる。少年マンガにおけるヒロインの在り方がまさにそれだ。それなのに……だっていうのに、なんだこの作品は!我々男子がこっそりとドキドキを楽しんでいた時分は何だったのだ!エロい……エロすぎる。なんだこの露出の量は。ページの半分が裸ではないか!)
食い入るように見る。息が少し荒い。
B(かわいい……はるなちゃんがかわいい)
食い入るように見る。はあはあ言い出す。
A「ふ……俺としたことが」
B(こんな馬鹿なことがあるか。こんな本一冊で何ができる。桐島学園の生徒会長という激務、この程度の萌えマンガ一冊では休息にもなりはしない。こんなマンガの一冊で……)
間。
A「一冊じゃないのか――!?」
B(あるのか、続きが!この生徒会室の内部に!)
A「待て、冷静になれ」
B(ああ)
A「もしもこんなところを誰かに見られたとしたらどうだ?」
B(そうだな。その場合俺は十中八九ヘンタイ扱いされるだろう。)
A「俺にも今まで築き上げてきたイメージというものがある」
B(だから)
A「故に」
B(事は慎重に)
A「行わなければ」
こっそりと扉に鍵をかけて生徒会室を物色する。棚の下の段にマンガを発見!
A「あった……」
B(しかも……)
にやりと悪人風に笑う。
A「全巻揃っている――!」
B(つまり――toラブるが、全巻揃っていると)
A「ふははははは……あーっはっはっは!」
高らかに馬鹿笑い。
A「やったぞー!」
しゃがみこんで真剣に読む。まるで難解な暗号でも解いているかのような顔。心の中の彼はスケベ顔。たまに「これは」とか「あはあ」とか呟く。
A「しかし――」
B(これが会長の所有物であると決めつけるのは早計ではないか?)
立ち上がり、思案気な顔をする。鼻血を拭き取る。
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