臨場リーディング




     【 一 】



 ページを捲る音、文字を書く音がする。
 緞帳が上がっていき、冬の凍てつく夜にパトカーの赤色灯が回っている。
 ランプ自体は無く、少し離れたところにあるパトカーの赤色灯の光が届いているといった感じ。
 サイレンは鳴っていない。
 白衣を着たカミツレが、カルテにペンで文字を書きながらやって来る。書き終わると同時に音が消える。

カミツレ「科学技術が発達した現代においても、説明がつかない不思議なことは存在する。
例えば、人間の脳。人間の脳は未だ謎が多い。アタシは臨床心理士、つまり心理カウンセラーをしているのだが、
中には心の病による幻惑や幻聴とは思えない、そう、能力……それは本当に不思議だけど、
人間の脳に潜む、能力の一部じゃないかと思う人たちがいる」

 カツミレ、カルテを閉じ、ペンを胸ポケットに挿す。

カミツレ「これはとあるクライエントの話。私のカルテのひとつ。
そして、(客席に向かって手を差し出す)あなたの潜在能力」

 舞台が徐々に明るくなっていき、同時にパトランプの赤い光が消えていく。
 カミツレ、舞台端(上下どちらか)へ移動。舞台中央を眺める。

 明るくなり、そこが殺人現場だと判明する。夜、とある住宅のリビング。
 古澤、前田、北山がいる。三人とも白い手袋、靴にビニールカバーをつけている。
 背中にナイフが刺さった女性の遺体がうつ伏せに倒れている。
 古澤はしゃがんで、前田、北山は立って現場検証をしている。北山はメモを取っている。

前田「被害者は五十代の主婦。第一発見者は被害者の夫。子どもがいるが自立しており、現在は夫と二人暮らし。
夫が仕事から帰宅したところ、ここで倒れていたらしい」

北山「(おそるおそる遺体を見る)うわぁ……(手を合わせる)はあ。
自分、殺人のご遺体を見るの初めてなんですよね。覚悟していても胸が抉られます。
こんなふうに死にたくなかっただろうな、とか。何で死ななきゃならなかったんだ、とか。犯人への怒りとか。
いろいろ感情が込み上げてきて」

古澤「最初は誰でもそうだ。その感覚を忘れるな。俺たちは被害者の無念を晴らすために犯人を捕まえるんだ」

北山「はい!」

古澤「鑑識の話だと、死後六時間は経過している。つまり、白昼堂々家に入ってきて、被害者を背後から刺した」

前田「指紋や足跡などは拭い取られていた。手慣れた奴の犯行、か」

北山「揉み合った形跡はないし、家の中も荒らされていない。
ざっと見たところ財布や通帳、宝飾などの金品は残っている。
強盗目的ではないってことですかねー(遺体を更に覗き込む)」

前田「おい、近づき過ぎるな。ご遺体にお前の痕跡が付くでしょうが」

北山「す、すみません」

古澤「怨恨……か。人間関係を徹底的に調べたほうがいいだろうな」

前田「反撃されにくい女性を狙った快楽殺人、という可能性もある。
北山、犯罪者データリストを洗え。同様の手口の事件があるかもしれない」
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