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あたかも殺人事件

あたかも殺人事件
相馬杜宇

【登場人物】
イシダケンジ
ナカイツバサ(劇団員１)
ワカモトタケシ(劇団員２)

とある劇団事務所。冬。
小道具らしき物品が雑然と置かれている。チビ椅子に座り１０キロのバーベルで筋トレしている劇団員１。
イシダ、台車にもたれて座っており、眠っている。その下にベンチシート。ロープで縛られており、下肢装具を履いている左足に１０キロのバーベルが載せられている。他は後ろに隠れて見えない。
劇団員２が横についている。
劇団員１、筋トレの途中で咳払いをする。
イシダ、起きだす。
途端にイシダの右足を押さえる劇団員２。

劇団員１　おはよう、イシダ君。
イシダ　ここは？
劇団員１　蒲田。
イシダ　蒲田……？
劇団員１　覚えてない？　乗ったでしょう、タクシー。我々と。
イシダ　あぁ……
劇団員１　事務所。劇団の。
イシダ　かすかに。
劇団員１　飲んでたもんイシダ君、相当。支えないと転倒する勢いで。
イシダ　(咳払い)あ、あ……
劇団員１　酒やけ。お互いに。
イシダ　とんだご迷惑を。
劇団員１　お互い酒飲みだしね。
劇団員２　どうしましょう？
劇団員１　いいんじゃない？
劇団員２　というと？
劇団員１　暴れる訳じゃあるまいし。
イシダ　(ハッと気づき)縛られてるんですけど。
劇団員２　あ、１枚敷く？　あるよ。クッション。
イシダ　そういう問題ではなくて。ロープで。
劇団員２　(劇団員１を指し)言われたんで。
劇団員１　一応ね。
イシダ　バーベルって何すか？
劇団員２　それも。(劇団員１を指す)
イシダ　なんでもかんでもなすりつけるのやめてもらえますか。
劇団員１　言ってたでしょ、発作あるって。
イシダ　(ハッと気づき)薬(と腰を浮かせる)……
劇団員１　飲ませたよ。確認して。
イシダ　ああ……
劇団員１　覚えてないんだね。
イシダ　すいません。
劇団員２　まあいいけど。
イシダ　言葉はあれですけど……あたかも殺人事件じゃないですか。
劇団員１　聞き捨てならぬなぁ。
劇団員２　あたかもって聞いたことある。
イシダ　熱海殺人事件ですか？　つかこうへいの。
劇団員１　ああ、全く違う。殺さない。自分は平和主義者だから。
イシダ　ですよね。
劇団員１　一応メンバーにも。
イシダ　ああ、平和を願う舞台人の。
劇団員１　ダメだね、思想を強要する人は。
イシダ　言ってましたよ、平和を夏の風物詩みたいに思い込んでる人がいるって。
劇団員１　平和って人それぞれじゃない。全員が連帯して平和の活動を続けていけばいいわけで。

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