カラオケッター
うらびれたシャッター商店街の脇道を入った所にそのお店はあります。
汚れたアスファルトにぞんざいに置かれた手書きの看板。
「カラオケ喫茶JUN 10時〜22時」。
現在の時刻は16時30分、営業時間ではあるが店内から音がしている気配が無い。
どうやら流行っている店では無いようです。
店の扉の前に立つ男は周りをキョロキョロと確かめた後、深いため息をつく。
細田は市役所の環境部環境管理課の職員である。
市民の環境についての苦情は全て細田の課が対応に当たる。
内容はゴミ置き場のトラブルや轢かれた動物の処理や隣人トラブルなど…
とにかく通常なら眉をひそめて全力で関わりたくない案件ばかりオンパレードである。
今日も嫌な仕事を前に細田の表情は暗く沈むのであった。
細田「は〜…行くか(ボソボソ)。ごめんくださーい!」
店の中は誰も居ない。
細田「あれ…留守かな?…すみませーん」
店の奥から木材を持った男が鼻歌を歌いながら店に入ってくる。(MISUAアイノカタチ)
浅見「あのね〜大好きだよ〜♪ん!?」
細田「あ、お邪魔してます〜」
浅見「待って!ただいまただいま!」
浅見は手に持った荷物をわさわさ置いてマラカスを取り出す。
浅見「スィッチオーン」(サンタナsmooth)
細田「え?え?何?」
浅見「いらっしゃーい!」
浅見、両手にマラカスを持ってシャカシャカしている。
細田「…あ、あの私」
浅見「(被り気味)いらっしゃーい!(シャカシャカ)」
細田「……あの」
浅見「らっしゃーえぃ!!(シャカシャカ)」
細田「……(ため息)」
浅見「あ、待って待って今ため息〜?ダメダメため息禁止☆でも分かる!ストレス。ですよね??」
細田「いや」
浅見「現代社会ぇ〜(ウンウン)こう見えてアタシ、ストレスには詳しいのよ?」
細田「は、はぁ」
浅見「おに〜さん営業さん?ウンウンいいのよ?会社には直帰チーっすって呑みに行く前に一曲行っとくかー?って、あ図星ー?」
細田「いやあの…」
浅見「んーん!営業職はストレスのオンパレード!!そんな時はすかさずストレス発散だ!俺のハニーヴォイスが火を噴くぜってなもんで歌って歌って歌いまくる!おにーさんの歌声を聞けばあのアンジェリーナジョリーだってあたしのジョリーナをジョリンジョリンにしてえと縋ってくってもんだぁ!」
細田「下品!」
浅見「これにはブラピも降参と裸足で逃げ出すって塩梅だ!さぁそんなおにーさんの歌声をォ!今ぁ!?ナウでぇ!?」
マイクをぐいぐい押し付け寄ってくる浅見。
腕を突っ張って押し戻そうとする細田。
細田「ううう歌いません!」
浅見「?まーたまた(笑顔)なになに?何歌う?ダパンプ??ダパンプでしょ?知ってる(したり顔)ほらぁ!」
細田「止めっ…」
浅見「ゆゆゆーえすえー!ゆゆゆーえすえー!」
細田「マジでっ…止めて!」
浅見を押し返す細田。
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