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東京メランコリニスタ【vol.14】

メランコリニスタ

　東京、某所
　「御堂メンタルラボ」談話室

御堂：答えたくなかったら無理に話さなくてもいいんだけどさ。
御堂：蜂須賀（はちすか）くんが「変わりたい」って思ったキッカケって何なの？
蜂須賀：キッカケっすか。

　目を伏せ、考え込む蜂須賀
　つかの間の沈黙

蜂須賀：キッカケ……。
御堂：はは、そんな難しい質問だった？
蜂須賀：改めて聞かれると答えづらいっすね。
御堂：これはあくまでも個人的な意見なんだけどね、カウンセリングとかじゃなくて。

　蜂須賀の目を見据える御堂

御堂：無理に変わる必要はないんじゃないかな、蜂須賀くんは。
蜂須賀：……何でですか？
御堂：ここ数日、対話を重ねて感じたんだけどね。
御堂：君は賢い子だ。冷静に物事を俯瞰（ふかん）する能力も身につけてる。
蜂須賀：……。
御堂：そのままでも十分、「何者か」になれるはずだよ。
蜂須賀：「何者か」って？
御堂：この街のエネルギーの根幹、そのものと言っていい人たちのこと。
蜂須賀：MeTuber（ミーチューバー）とか？
御堂：そうだね、間違いない。
蜂須賀：……何つうか、「変わりたい」って言うより……。
蜂須賀：「捨てたい」んスよね、今の自分を。
御堂：どうして？
蜂須賀：余計な荷物だからです。
蜂須賀：パソコンだって無駄なデータで容量食ってたら鈍くなるでしょ。
蜂須賀：ほら、流行ってるじゃないすか、断捨離。
御堂：ははッ、ドライだね〜。スーパードライだ。
蜂須賀：……ビール？
御堂：俺はワイン派だけどね。
蜂須賀：そうすか。
御堂：やっぱり蜂須賀くんは賢いよ。
御堂：自分の適性を客観視して、合理的な手段を迷わず選択した。
蜂須賀：合理的かはわからないっす。
蜂須賀：ただ……。
御堂：俺のカウンセリングには可能性を感じた。
蜂須賀：はい。
御堂：良い選択だと思うよ。
御堂：君なら全く新しいペルソナを作り上げられるかもしれない。
御堂：けど、リスクがあるってことも覚えておいてほしい。
蜂須賀：何ですか？
御堂：自己と乖離（かいり）したペルソナを持つと、心のアンチノミーに苦しめられるかもしれない。
蜂須賀：アンチノミー？
御堂：二律背反ってやつ。
御堂：要するに、どっちが本当の自分かわからなくなっちゃうよってこと。
蜂須賀：大丈夫でしょ。
蜂須賀：さっきも言ったっすけど、今の自分捨てるつもりでいるんで……。
蜂須賀：そもそも二律が成立しないっす。
御堂：はっはっは、面白いねぇ。
御堂：蜂須賀くんと話してると刺激的で楽しいよ。
御堂：あ、コーヒー飲む？
蜂須賀：砂糖多めで……。
御堂：あいよ。

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