在り処
在り処(ありか)
相馬杜宇(あいばもりたか)
【あらすじ】
静まり返った民家の居間、雑然と散らかった部屋でなにやら物色している男。そしてこたつから老婆が這い出してくる。
老婆は何をどう間違えたか、その男を久しぶりに訪ねてきた自分の息子だと思い込んでしまう。早くめぼしいものを見つけて立去りたい男に対し、何とか泊まっていくように引き留める老婆。その行き先とは?
【登場人物】
男
老婆
学生
―0―
初冬。
静まり返った民家の居間。
舞台中央にコタツ、その上に目覚まし時計、周りに座布団が二つ。
その他にタンス、棚、電話、座布団の山など。
床に物が雑然と広がっている。
舞台の前方には廊下が横一線に広がっている。上手は玄関、下手はトイレ、老婆の部屋に繋がっている。
さらに前方には縁側があり、外に通じている。
正面奥には台所がある。
男が縁側に現れる。よれよれのジャンバーに薄汚れたジーパンの出で立ちが存在の胡散臭さを際立たせている。
中を窺い、音を立てないように注意して入る。
誰もいないことを確認して、早速物色を開始。
ぎこちない手付きから素人であることが分かる。
時折コタツがモゾモゾと動く。
しかし男は気づいていない。
男、棚からチャックのついた小物入れを取る。
開けてみると、そこには印鑑。
印鑑を中に戻し、ポケットへ。
その時コタツの上の目覚ましが鳴る。
男、驚いた拍子に棚にあったけん玉を足に落とす。
足を抱えて飛び跳ねながら、目覚ましを止めにいく男。
コタツから手が出てくる。
男、目覚まし時計を持って驚き飛び退く。
まもなく老婆がコタツから顔を出し、男を見る。
老婆 (嬉しそうに)おお……お帰り。
男、逃げ出そうとする。
老婆、すかさず男の腕を掴む。
老婆 久しぶり。
男 ……?
二人、見つめ合う。
―1―
三十分後。
何かを探している男と老婆。
男 ッたくどこにやったんだよ。
老婆 悪いね、わざわざ来てくれたってのに。
男 謝る暇あったら探せよ、ちゃんと。無かったら困るだろ。
老婆 (通帳を手に取り)あった。
男 おッ。
老婆 ほら、第一勧銀。
男 そんな銀行、もうねえよ。
老婆 え、ないの?
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