賢治嫌い
賢治嫌い
相馬杜宇(あいばもりたか)
【登場人物】


ある首相
アナウンサー

本作品は男と友の物語を想定している。演出により男の一人芝居、あるいは男と友の二人芝居もあり得る。また一人芝居、二人芝居、いずれの場合も友とのラインのやり取りはプロジェクターを映写するなど分かりやすさに配慮することを期待したい。
舞台セットは観客の想像力を喚起するよう簡素なものでかまわず、作り込む必要はない。
なお意図的に3点リーダー(……)は記載していない。俳優は役作りに応じて間合い等を計算して演じて欲しい。

―1―
2019年12月。
撮影所。
男、チンピラに扮し、脅迫している。

男 ああ!? ざけんじゃねえぞ、チンカス野郎!!

男、殴る蹴るの暴行を加える。
監督のOKが出る。
男、ガラリと和やかになり、

男 ありがとうございます。お疲れ様でした〜。(ペコペコ頭を下げる)

男、若い役者(タカシ)のもとに歩み寄り、

男 お疲れ、タカシ。頑張ったよぉ。(とタカシの肩を叩く)あっ、付いてるよ、血のり。待って。拭く。新しいタオルで。

男、新しいタオルで丁寧に拭く。

男 よしと。あのさ、このあと何かある? ない? 暇? あのさ、ここの近くでいい感じの居酒屋があるんだけど、どう? 行く? ホント。そっか。じゃあどうしよっかなぁ。(スマホの時計を見て)5時でいい? よし。じゃあ正門に集合で!


―2―
同日の夜。
居酒屋菩薩。温かみのある雰囲気。
男とタカシがいる。カウンター席。大皿と2人分の取り皿、それにジョッキとお湯割りグラスがある。
2人はすでに出来上がっている。

男 売れるって。イケメンだし。言ってたぞ、マネージャー。タカシを売り出したいって。そうだよ。顔いいから。自信持てよ。天下のオクトプロモーションがそう言ってんだから。(『蒲田行進曲』の銀四郎の真似をして)羨ましいぜ。小一時間この店いるのに、サイン一つはおろか、気味悪がって居酒屋ホールバイトすら断られたんだぜ?

タカシ、ポカンとする。

男 知らない? 『蒲田行進曲』の台詞。観ろ、面白いから。いいよぉ。大部屋俳優ってなくなっちゃったけど。そう、絶滅。チャレンジしたかったなぁ。

タカシ、何かを尋ねる。

男 ああ、断られたんだよ、ホール。チェーンだったんだけどね。店長チラッと見て、「たとえばですけど、キッチンのお仕事はいかがですか」って。フツー言うかぁ? 居酒屋なんてどこも人手不足でしょ。ホールがいいですって受けてんのに。

タカシが何かを尋ねる。

男 無理無理。目玉焼きすら満足に焼けないんだから。2だよ、家庭科の成績。キッチンなんて務まるわけないし。

タカシ、また何か質問する。

男 理由? 一つしかないじゃん。

男、やや間を置いて、

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