マインド
マインド
宮川マサアキ
【登場人物】
マイコ…女性型アンドロイド(24くらいの設定で造られている)。“ガードナー”(法的オーナー)である原岡拓馬を深く慕い、共に暮らしている。
須郷(すごう) 雅令(がれ)(34)…航空・宇宙機材メーカー勤務。火星探査会社の調査員に応募したが、ともに最終選考に残った幼馴染で同僚の原田拓馬に譲るため辞退した。拓馬が共に暮らすマイコに好意を抱いている。
原岡 アスナ(55)…拓馬の母。20年前に夫を病気で亡くし、その後は一人息子の拓馬を一人で育ててきた。地方公務員。
朱(じゅ)莉(り)…女性型アンドロイド(年齢はマイコと同様の設定)。雅令をガードナーとして誕生する。(マイコと二役)
新倉 カオル(32)…雅令の元彼女。ジャズピアニスト。
高田 凡(ぼん)(43)…アンドロイド製造会社であるアンドロスゴイ社日本支社の営業担当者。
稲村 ヤッコ(44)…アンドロスゴイ社日本支社の総務担当社員
坂下 マサヤ(47)…アンドロスゴイ社日本支社の技術担当社員
串カツ田中の店員
【会話中にのみ登場】
原岡 拓馬(33)…マイコのガードナー。雅令と同じメーカー勤務。火星探査会社の探査員に応募し、合格、3か月後に迫った出発に向け、訓練期間中。
第一幕
第一場 ―コストコ
○ある冬の日の午後2時頃、コストコ新横浜店1階のエントランス外側。ぼんやりと立ち、時々髪を触っているマイコを、偶然買い物にやって来た須郷(すごう)雅令(がれ)が認め、声を掛ける。
雅令 「おっと、マイコちゃんじゃない」
マイコ 「あら、雅令さん、こんにちは」
雅令 「どうしたの、こんなところで一人で…あ、そうか、拓馬を待ってるんだね?今週末は久しぶりに訓練お休みって言ってたな」
マイコ 「そうなんです。私たち、もう帰るんですが、拓馬さん、家具売場で引っ掛かっちゃって、先にここで待ってろって言うものですから、車を廻してきて待ってるところです」
雅令がマイコと何ごとか話す間、雅令の声でナレーションが流れる。
(雅令N)「マイコは幼馴染で同僚の拓馬が共に暮らすアンドロイドだった。メーカーであるアンドロスゴイ社は“心を持った”という意味を込めて、『マインドロイド』の商品名で売り出していた。僕は日頃から拓馬の家へ遊びに行ったり、外で彼ら二人と落ち合ってのんびり時間を過ごしたりしていたが、実はマイコに会うのを楽しみにする気持ちがしだいに強くなって行く自分に気付き始めていた。」
雅令 「人の買い物を待ってるくらい退屈なものはないよね」
マイコ 「拓馬さんは家具を見るとすぐ足が止まっちゃうんですよ。もう慣れちゃいましたけどね。ここの家具はどれもこれもうちのサイズにはいまいち合わないんです。もう何度も言ってるんだけど…」
雅令 「それはそれは、ご馳走さま、ってところかな」
マイコ 「あら、そんな意味じゃ…雅令さん、人が悪いわ」
雅令 「(笑って話を転じ)火星行き、もうすぐだね。やっぱり全部で1年くらいになるのかな?」
マイコ 「そうですね」
雅令 「マイコちゃんも寂しくなっちゃうね」
マイコ 「(下を向いてただ微笑む。その後、雅令の方を見て)お母さんとのんびり過ごします」
雅令 「そうか。マイコちゃんがいるからお母さんも安心だ。」
マイコ 「拓馬さん、いずれ火星で一緒に暮らそうって言ってくれて…私は問題ないんですけど、お母さんを一人にはできないですよね」
雅令 「お母さんも行くとなると大変だね。火星ってまだ千人くらいしか人がいないんでしょ?拓馬、何見てるんだろうな。サイズの合わない家具を火星に持っていくつもりかな。俺、ちょっとあれこれ買わなくちゃいけないんで、先行くわ。よろしく言っといて。」
マイコ 「うちにもまた遊びに来てくださいね」
雅令がマイコに微笑み手を振って去る。
(雅令N)「拓馬を含む18人の火星調査隊を乗せた飛行船は予定通り4月に地球を飛び立ち、月経由で火星へ向かったが、8日目に爆発事故を起こし、全員が犠牲となった。」
暗転。
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