秘密の過日
『秘密の過日』(ひみつのかじつ)
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瀬名:瀬名文彦(せなふみひこ)。古書店の店主で、売れない小説家。
ハル:木村春(きむらはる)。古書店によく来る女子大生。
木村:木村雄二(きむらゆうじ)。文彦のクラスメイトで親友。涼子の彼氏。
涼子:木村涼子(きむらりょうこ)。旧姓は藤葉(ふじは)。ハルの母親。
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瀬名:秋が過ぎて急に寒さが増す十一月。
瀬名:今日も彼女がやってきた。
瀬名:軽く会釈をしてから、そう広くない店内の本を見て回る。
瀬名:そんなに口数は多くないけれど、話し出すとどこかあの人の面影がある。
瀬名:彼女の名前はハル。
瀬名:この近くの大学の学生だ。
瀬名:文学部に通う彼女は、よくこの古書店に立ち読みに来る。
瀬名:今日もああして、もう一時間以上本を読み続けている。
瀬名:その横顔が・・・、やはりあの人に似ていると思ってしまう。
瀬名:初恋の・・・、あの人に・・・。
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涼子:「瀬名くんは、絶対小説家になるべきだよ。」
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瀬名:そう言ってくれたのはあの人だった。
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木村:「そうかあ?」
涼子:「そうだよ。だって、瀬名くんの書く小説、めっちゃ面白いもん。」
木村:「いや、俺だってそう思うよ?
木村: でも、そういうプロの世界って厳しいんだろ?
木村: それで食っていくってなったら、やっぱ話が違うんじゃ・・・。」
涼子:「雄二はそういうとこホントだめ。」
木村:「はあ?」
涼子:「夢持たないでどうするの?わたしたちまだ高二だよ?
涼子: 今から疲れたサラリーマンみたいなこと言ってて人生楽しい?」
木村:「そうじゃなくて。無責任なこと言えないって言ってんだよ。
木村: 文彦の人生が掛かってんだぞ。なあ?」
瀬名:「あはは・・・。」
涼子:「だからこそじゃない。わたしたちが応援してあげないでどうするのよ。
涼子: 瀬名くんは絶対小説家になれる。わたし、応援してるから。」
瀬名:「うん。ありがとう。」
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瀬名:彼女、藤葉涼子は、親友の木村雄二の彼女だった。
瀬名:僕たちは高校時代、よく三人で一緒にいた。
瀬名:もともと僕と雄二が一緒にいたところに彼女が入ってきて三人で遊ぶようになって。
瀬名:そして、いつの間にか彼女と雄二が付き合っていた。
瀬名:彼女は最初から雄二のことが好きだったのかもしれない。
瀬名:それで僕たちの間に入ってきたんだろう。
瀬名:彼女は最初、瀬名くん木村くんと呼んでいた。
瀬名:でも一週間後には瀬名くんと雄二になっていた。
瀬名:それがすべてだと思う。
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ハル:「こんにちは。」
瀬名:「こんにちは。」
ハル:「これ、ください。」
瀬名:その手には、先ほどまで読んでいた本が握られていた。
瀬名:「・・・買わなくてもいいんだよ?」
瀬名:彼女はいつも、最後まで立ち読みした本を買っていく。
ハル:「ううん。面白かったから。もう一度、家で読みたくて。」
瀬名:「・・・そう。」
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