カンテラ町の灯【愛憎、燃ゆ】
カンテラ町シリーズ:7話
 カンテラ町、郊外。薄暗く、朽ち果てた市場の名残が続く路地。
 そこをおぼつかない足取りで歩く紫雲の姿。
 途中、茣蓙(ござ)で横になっていた九厓が話しかける。

九厓:先生。
紫雲:……。

 九厓の声は紫雲の耳に届いていない。

九厓:おい、先生!
紫雲:っ! ……ああ、九厓さんですか。
紫雲:申し訳ありません。少々呆(ほう)けておりました。
九厓:らしくねぇなぁ。
九厓:足取りも心もとないように見えたぜ。大丈夫かよ。
紫雲:ええ……。ご心配には及びません。
九厓:顔色も悪ィんじゃねぇか?
紫雲:ふっ、よもや診察される側に回るとは思いませんでした。
九厓:暗くてよく見えねぇけどな。

 力なく苦笑する紫雲。
 立ち上がり、優れない顔色を覗き込む九厓。

九厓:ちゃんと食ってんのかい。
紫雲:……近頃は療治のご依頼も多く、なかなか。
九厓:嬉しい悲鳴ってやつか。
九厓:だがよ、ぶっ倒れちまったら意味ねぇだろ?
九厓:それこそあんたを必要としてる奴らが困るじゃねぇか。
紫雲:必要、ですか。
九厓:ああ。
紫雲:真に彼らを必要としているのは私の方ですよ。
九厓:何だと?
紫雲:お心遣い感謝します。九厓さん。

 笑顔を浮かべ、その場を後にしようとする紫雲。

九厓:おい待てよ、先生……。

 同時に一人の子どもが市場の方から逃げてくる。

鱗:ケチケチすんじゃねぇよ、おっさん!
鱗:少しぐらい大目に見やがれ!

 逃げた先に立っていた紫雲とぶつかり転倒する。
 地面に盗品らしき物が散らばる。

紫雲:!
鱗:ってぇ!
紫雲:おや……。
鱗:くそっ、突っ立ってんじゃねぇよ!
鱗:あぁ、散らばっちまった……。
九厓:鱗(りん)! お前、また盗みかァ!
鱗:げっ、九厓のおっさん!
九厓:懲りねぇな、このクソガキは……。
紫雲:大丈夫ですか? 手を……。

 鱗に手を差し伸べる紫雲。
 しかしその手は乱暴に払われる。

鱗:触んじゃねぇよ! 
九厓:お前なぁ、こんなこと焔(ほむら)が望んでると思うのか?
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