じぃちゃんが死なない。
□「じぃちゃんが死なない」
人 物
山村耕助(22)大学生。
山村倫子(20)耕助の従妹。
島田竹史(28)耕助の従兄。
本間みゆき(23)耕助の従姉。
本間夏彦(18)耕助の従弟。
舞城(32)弁護士。
○【21:00】集められたイトコたち
舞台中央に四人は座れそうな数のソファーとローテーブル。モノの少ない部屋。
ここは山村家の屋敷。日光の山奥に住んでいる地主である。その屋敷の隅にある古い客室、という設定。3月のある日。
吹雪く風の音。
小松田耕助(22)、小奇麗な服装で窓の外の、雪が降る具合を眺めている。
後から山村倫子(20)、部屋に入ってくる。
倫子「廊下、寒っ。耕ちゃん、暖房付けないの?」
耕助「あぁ、つける、つけるよ(暖房を付ける仕草) タケ兄たちは?」
倫子「(毛布を置く)……もっと毛布持ってくるって」
耕助「あの部屋、さすがに十人以上は無理だったね」
倫子「うん」
耕助「小っちゃかった頃は、もっと広かったような気がするんだけどなぁ」
倫子「……もう、みんな大人だから」
耕助「今日、久しぶりにみんな集まったけど、あれから何年経った?」
倫子「あれから?」
耕助「僕たちが一緒に住んでた頃から」
倫子「あぁ……私が、九歳までだったから、もう、十一年?」
耕助「うわっ、そんなに!?」
倫子「うん」
耕助「そっかぁ、あの二年間楽しかったけどなぁ、もうそんなに経つんだぁ……」
倫子「おばさん元気?」
耕助「ん? あぁ元気元気」
倫子「あ、そう」
耕助「ねぇ、倫ちゃん、じぃちゃんのことどう思う?」
倫子「どうって?」
耕助「だから……」
倫子「まあ、大丈夫なんじゃないかな」
耕助「やっぱり……やっぱりそうだよね!」
倫子「(ぼそっと)まだもつと思うよ、あのじじい」
耕助「え?」
倫子「なんでもない。おじぃちゃんは、まだ死なないよ……」
耕助へスポット。
耕助「『死は人生の終末ではない。 生涯の完成である』と、ルターは言った。
また、ドイツの哲学者、ハイデガーは『人は、いつか必ず死ぬということを思い知らなければ、
生きているということを実感することもできない』とも言った。
三月の、雪降る静かな夜。僕たちは、危篤状態に陥った祖父の知らせを受け、日光の屋敷へ集められてしまった……!」
オープニングのBGM。
舞台上へ、島田竹史(28)、本間みゆき(23)、本間夏彦(18)、舞城(32)が定位置に。明かりが点く。
舞城、手に遺言書を掲げている。
竹史「要するに、その遺言書はじぃちゃんが死ぬまで開封できないってことだろ?」
舞城「ええ、今までのことを要約すると、そういうことになります」
みゆき「そりゃそうでしょ、だいたい、今夜開封するって決まったわけでもないんだから」
夏彦「え、今夜じぃちゃん死にそうだから、俺たちが集められたんじゃないの?」
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