お江戸商人
  4.お江戸商人

 時は1849年。世は鎖国の時代にあり、ペリーが来航する少し前のことである。
 長崎の中でも外れに位置し、「生粋の江戸っ子でい」と言われれば江戸であり、「いや、江戸なんて田舎と一緒にしないでください」と言われてしまえば江戸ではない。そんな曖昧な場所に商店を立てた名の無い商人。ここはその商店である。ただ、ここには時代にそぐわないものばかりが置いてある。
 商人が座っていて、茶屋が商品を見ながらチラホラと商人を窺っている。なんなら絵を描いている。
 商人は現代(2013年)風の格好をしている。何かを真剣に書いている。

 商人「あの、どうしました?」
 茶屋「え、いや、何でもないですよ」
 商人「どこかでお会いしましたっけ?」
 茶屋「いや、会ってないと思いますよ。業界人ではありますけれども」
 商人「え?何の業界人なんですか」
 茶屋「いえいえ、言っていませんよ。そんなアハハ」
 商人「何か、乾いた笑いだなあ」
 茶屋「…。あの、その身にまとっているものは何ですか?」
 商人「普通に着物ですよ」
 茶屋「…今年はそういったのが来るんですかね」
 商人「ああ、家はこういった珍しいものを売っておりましてね。何かお探しですか」
 茶屋「いや、探しているわけではなく、盗みに来たのです」
 商人「ああ…。駄目だよ、それ!」
 茶屋「あ、違いますよ。技術を盗みに来たのです。企業努力です」
 商人「ああ…。駄目だよ、それも!」
 茶屋「じゃあ、嘘。すみません嘘でした。盗もう何て考えてもいません」
 商人「嘘か。そいつは良かった」
 茶屋「どこでこんなものを仕入れてくるんですか?見たことも無い商品ばかりで」
 商人「あの、店の前の看板見ませんでしたか?うちのことは秘密なんです。この店の中で見たものも聞いたものも内緒なんです。決して外に漏らしてはなりません」
 茶屋「ああ、この看板ですね」
 
 茶屋は外から看板を取ってくる。そこには『トロい』

 商人「逆、逆」
 茶屋「あ、こっちですか。でも、この材質は何ですか?木材ではないような、でも硬い     
    し」
 商人「内緒です」
 茶屋「これは何ですか」

 ヒートテック。

 商人「えーと、それは、あたたかさ十倍(当社比)です」
 茶屋「そんな名前なんですか。当社比込みで」
 商人「そうですよ」
 茶屋「…どうやって使うものですか?」
 商人「はけばいいんです。そうすれば見体験の温かさがあなたを包みます」
 茶屋「ちょっ、ちょっとはいてみようかな」
 商人「どうぞどうぞ、すごいものですよ」

 商人はヒートテックに着替えます。

 茶屋「ああ、温かい。こんなに薄手の素材なのにこんなにも温かいなんて、どうしてでしょうか?」
 商人「…。真心ですよ」
 茶屋「そうかぁ、結局のところは気持ちの問題ですか。実は私も呉服を専門的に販売しているのですが、やはり気持ち、心が大事なのかと改まる具合でして」
 商人「呉服屋なんですか」
 茶屋「ええ、呉服屋を営んで…はいないんですけれども」
 商人「どっちですか」
 茶屋「いや、営んでいないです。そしてそこはあまり掘り下げないようよろしくお願いしたい」
 商人「したいって。でも専門的に販売しているって」
 茶屋「いや、そういうあの、dreamがありましてね」
 商人「ど、どり…」
 茶屋「ああ、英語ですよ。ある機会があって、米国人に英語を少し教えてもらったのです」
 商人「最近漂着したっていう人ですか」
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