ビザールラブトライアングル
『ビザールラブトライアングル』
作 渡辺キョウスケ
登場人物:
女1 チナツ
女2 カヨコ
男1 ユウジ
男2 タチハラ
男3 ナマイザワ
(※男2・男3は複数の役を演じる)
女1、闇に一人立っている。
スポット。
女1「・・・話をしようと思う。私たちの話を。こうして私がここに立ち、こうやって今、照明を当てられているってことは、その権利があるということだろう。いや、或いは、義務、なのかも知れない。私は、ここに立たされ、照明を当てられている以上、話をしなくてはいけない義務がある・・・彼女がそうだった。彼女はいつもこうやって舞台に立ち、照明を当てられ、与えられたセリフを喋っていた。彼女は果たして、それを権利だと思っていたのか、義務だと思っていたのか・・・私には分からない。きっと彼女も分からないのだろう。だって、今こうして、ここに立ち、照明を当てられている私が、果たして自分の意思でここにいるのか、それとも誰かに立たされているのか、もはや判然としなくなっているからだ・・・とにかく、話をしようと思う。そうするより他は無い、ということだけはハッキリしているから、とりあえず、話をしようと思う。前置きが長くなってしまったが、まず、自己紹介をするのが礼儀というものだろう。私の名前はオオバチナツ。どこにでもいる普通の26歳の派遣社員だ。最初に、私たちの話、と言ったが、私たち、というからには、この話には登場人物が他にいる」
女2、登場。
女2に照明が当たる。
チナツ「(女2を指し)彼女の名前はトオミネカヨコ。職業は、女優。と、言っても、いわゆる小劇場で活動している女優なので、それだけで生計が建てられているわけではなく、パートや水商売で食いつないでいるような、典型的な「自称」女優というヤツだ。年齢は」
カヨコ「(遮って)ヘイ。(指を振って)ノンノン」
チナツ「・・・本人からストップが出たので黙ることにする。女優という人種は、やたらと年齢を隠したがる生態があるのは皆さんもご存知の通りだと思う。なので、どうかこれ以上詮索しないでいただきたい。私と彼女は友人同士だ。私の会社の同僚に劇団に所属している人間がいて、『チケットノルマがあるから』と無理やりチケットを買わされ、仕方なしに観に行った芝居に彼女が出演していた。それが彼女との初めての出会いだ。その後、同僚に誘われて参加した打ち上げで彼女と意気投合し、今では一緒にお茶したり互いの家で呑んだりするような仲だ。彼女には、付き合っている男がいた」
男1、登場。
男1に照明が当たる。
チナツ「(男1を指し)男の名前はモトミヤユウジ。彼女の所属している劇団の座長だ。座長と団員の女優がデキているなんていうのはよくある話で、彼がロクに働きもせず、彼女に食わせてもらってる、いわゆるヒモであったことも含めて、こうしてわざわざ照明をもらって話すようなことでもない、実にありふれた話だ。しかしながら、この3人の関係性をちょっとだけ、ほんのちょっとだけややこしくしているのが、私、オオバチナツが、(女2を指し)彼女、トオミネカヨコのことを、愛してしまっているということだ・・・そしてこの話は、私が彼女に電話で二人の住むアパートに呼び出され、彼女が彼を殺した現場を目撃したところから始まる」
カヨコ、包丁を取り出し、ユウジを刺す。
ユウジ、倒れる。
場面、カヨコとユウジの暮らすアパートの一室に変わる。
カヨコ、包丁を落とし、その場にへたり込む。
チナツ、その光景を見て呆然とする。
チナツ「・・・・・・(思わず笑って)え、嘘でしょ?」
カヨコ「(泣きながら)チナっちゃん・・・」
チナツ「え・・・カヨさん、これマジ?」
カヨコ「マジ・・・」
チナツ「えええ・・・え、ちょ、ユウジさん?」
カヨコ「・・・返事しないよ、死んでるもん・・・」
チナツ「・・・いや、でも・・・ユウジさん、ねえ、ユウジさん」
カヨコ「死んでるって言ってるでしょ!!」
チナツ「・・・うん、そうだね、死んでるね・・・」
カヨコ「・・・」
チナツ「・・・え、刺したの?」
カヨコ「・・・(うなずく)」
チナツ「(包丁を指して)それで?」
カヨコ「(うなずく)」
チナツ「・・・え、何で?」
カヨコ「・・・」
チナツ「・・・ケンカ?」
カヨコ「・・・浮気してた」
チナツ「浮気?」
カヨコ「劇団の新人と」
チナツ「あ、こないだ入ったって言ってた・・・?」
カヨコ「(うなずく)」
チナツ「そっか、浮気か・・・じゃあ、しょうがないか」
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